谷口の普請と村野の腐心 ―迎賓館赤坂離宮・和風別館を訪れて

2018/04/06 種田元晴


 予約が取れたので、「迎賓館和風別館」(設計:建設大臣官房官庁営繕部・谷口吉郎/1974)を見学してきました。
 「和風別館」は、45分のガイドツアーでのみ見学可。忘れないうちに、ガイドさんのお話を書き留めておきたいと思います。

 「和風別館」は、片山東熊の「赤坂離宮」(1909)を村野藤吾が改修した「迎賓館」(1974)の裏っかわにあります。猛々しく構える「迎賓館」の裏側の主庭へ回り込み、さらに北に生い茂る樹林を抜けると、雰囲気は一転、日本庭園と「和風別館」が現れます。
 途中の樹林は、洋と和のそれぞれを同時に見ることのないよう、異なる世界を切り分ける効果をもたらしています。戦災を免れた巨木が、両者を見守っています。その横には、最初の賓客である英国女王がみずから植えた木が、約45年の時を経て大きく伸びています。樹林を抜けると巨鯉の泳ぐ池越に、谷口吉郎設計による「游心亭」(和風別館の正式名称)が佇んでいました。

 池の脇のテラスよりロビーへと入ります。内部は撮影NG。建築は鉄筋コンクリート造です。

 まずは中門へ。賓客は北西の紀伊の国坂よりアプローチして、この中門から入るのらしいです。鉄平石の敷かれた渡り廊下を竹林と白砂による枯山水庭園を右目に歩き、玄関へと至ります。枯山水には岩が3つ置かれているが、これは谷口の設計時にはなかったもの。後の首相・中曽根康弘が、白砂だけではさみしいからといって、谷口に相談せずに置いたのらしいです(事後報告をしようとしたが、すでに谷口は彼岸へと渡っていたとのことです…)。

 玄関の床は玄昌石割り肌にワックスがけをした、黒光りの美しい仕上げ。もちろん庶民はこれを踏むわけにいかないので、レッドカーペットが敷かれています。壁は砂壁。天井は杉柾目板の浮づくり仕上げ。ところどころに大小の六角形の照明の穴が開いていて、小さな方からは六角柱の照明器具が下がっています。六角形は谷口好みの形態。大きな穴の間接照明が美しいです。ちなみに、大江宏の好みは正方形です。

 玄関から南どなりのロビーへふたたび戻り、靴を脱いで、取り次ぎ、待合を経て広縁へ進みます。取り次ぎと待合とは、横桟と細身の円柱からなる軽やかな木製パーティションが仕切り分けていました。待合に置かれた椅子は、足元がアクリルとなっていてオシャレ。

 勾配天井をもつ広縁の左には、大きなサッシ越しに池と庭園が見えます。庭園奥の築山は、ちょうどここを歩く人の目線と同じ高さに盛られています。天気が良い冬の日には、池に反射した光が勾配天井に映り込み、天井がゆらゆらと輝いて見えます。

 広縁の右手には、主室である47畳の広間と12畳の次の間があります。ここで賓客をもてなし、会食されるのだそうです。30人ほどが集えるんですって。

 広縁を奥に雁行してつづく廊下を進むと、右手に即席料理室があります。ここは寿司や天ぷらなど、鮮度が問われる食事をカウンター越しに料理人の目の前で食す場だそうです。広間に通される食事は、入札によって選定された大手ホテルがその一年間を担当するらしいですが、即席料理室で振る舞う料理は、その都度に腕利きの職人を召喚して出すのらしいです。首相は奥の窓前の席、賓客は角の窓の外が見える席に着くのが通例らしいです。格式高い書院造りの広間に対し、即席料理室は古民家風のしつらえとなっています。梁は栗の木、天井は竹を割いて平に伸ばした簀の子張り仕上げ。

 即席料理室を出て、さらに奥へと進みます。一段下がって、左に曲がると南西の端にある茶室へたどり着きました。外国人が茶の文化に親しみやすいよう、座敷に正座させるのではなく、椅子座の立礼席としてあります。同室に4畳半の小上がりも付設されています。小上がり席で茶をたてる姿を愛でつつ、壁に沿ってつくられた長椅子に腰掛けて茶を嗜むことができるつくりです。

 茶をたてるのは、表千家か裏千家とのこと。武者小路千家は担わないらしいですね。天井の網代は桐が用いられた珍しく網代天井とのこと。床は畳模様のじゅうたんで脚に優しいです。谷口が精選した当時のものとのことです。

 茶席手前にある待合には、つくばいがあって、ここで坪庭を愛でつつ待合えるつくりとなっていました。でも、忙しい賓客ばかりのため、ここが使われたことは一度もないのだとそうです。

 大江宏のそれとは違って、基本的には野物と化粧は分離していません。
 大変素晴らしい和洋折衷空間でした。

 もちろん、「迎賓館」本館も愛でてまいりました。こちらについては、とくにコメントはありません。

 帰りがけに、図書館でこの2つが載っている『新建築』1974年6月号を読みました。あえて言えば、「迎賓館」については、浦辺鎮太郎が選んだ「迎賓館」に関わる「村野藤吾語録」が面白いです。

 先人への敬意をいかに込めたか、黒と白がいかに難しい色であるか、いかに宮殿でなくす工夫をしたか、庭づくりがいかに面白かったか、日本人がいかに遠い目でものを見るのが苦手か、ベルサイユ宮殿の修復からいかに学んだか、いかに日本をとりいれたか、などなど。

 この記事を読んでから行かれると、片山東熊と村野藤吾の格闘の様子がよくわかって面白いと思います。

 「迎賓館和風別館」池越しに臨む南側外観

「迎賓館和風別館」テラス側より臨む南側外観

「迎賓館赤坂離宮」正面外観